悪性骨軟部腫瘍の情報
悪性骨腫瘍の中で代表的なものに骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫などがあります。これらは病気によって発症しやすい年齢が異なります。悪性軟部腫瘍では脂肪肉腫、未分化多形肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫などが比較的多くみられます。MRIなどの画像検査で特徴的な所見を示すものもありますが、診断のためにはほぼ全例で腫瘍の一部を採取し病理組織検査を行う組織診断が必要になります。
組織の採取(生検)には腫瘍に針を刺して組織を採取する針生検と、皮膚を数センチほど切開して行う切開生検があります。針生検は患者さんの負担が少ないことが特徴ですが、採取する組織が小さいため診断が十分につかないことがあります。ほとんどの場合は外来で行うことが可能ですが、わかりにくい場所の場合は入院し放射線科でCTガイド下針生検を行うこともあります。切開生検は入院のうえ手術室で行います。針生検よりも大きな腫瘍組織を取ることが可能となります。
採取した腫瘍組織に対して病理組織検査を行います。この検査では顕微鏡で細胞の形や配列をみますが、必要に応じてタンパク質の発現や遺伝子の解析を行います。骨・軟部腫瘍の組織型は100種類以上におよび、通常のがんと比べて診断が非常に難しいため正しい治療にたどりつきにくいことが知られています。当院では経験豊富な病理医によって診断を行っていますが、それに加えて世界で有数の実績を持つ九州大学病院の病理学教室と連携しより正確な診断を目指しています。
治療について
- 手術
悪性骨軟部腫瘍の治療は切除が基本です。抗がん剤や放射線治療のみで根治可能な腫瘍がほとんどないからです。手術の時には再発を防ぐため腫瘍を健常な組織で包むように広く切除する必要があります(広範切除)。古くには四肢にできた悪性骨・軟部腫瘍に対し切断術を行うことも多かったのですが、最近では多くの患者さんで広範切除を行いつつも切断せずに手足が残せるようになってきています(患肢温存手術)。これには適切な切除範囲が確立されてきたこと、手術の前後に行う化学療法や放射線療法を組み合わせることで治療成績が上がっていること、切除後の欠損に対する再建術が進歩してきたことなどが寄与しています。
欠損に対する再建術には様々な方法があります。骨切除後には、人工関節、自家骨(他の部位から骨を移植する)、処理骨(切除した骨を処理して腫瘍を死滅させて欠損部に戻す)、人工骨などにより再建します。成長期に発生した大腿骨腫瘍の切除時には、その後の成長に対して延長可能なカスタムメイドの人工関節を用いて再建することもあります。再建の中でも、別の部位から皮膚を移植したり(植皮)、血管を付けたまま皮膚や筋肉や骨を移植したり(皮弁)する場合は形成外科とチームを組んで行います。
骨・軟部腫瘍の手術は患者さん一人ひとりで異なります。腫瘍の存在する場所、腫瘍の広がり、腫瘍の種類などで適切な切除範囲が異なるからです。また、患者さんの職業など生活背景によりどのような機能を優先して残すかということも考慮して再建方法も個別に決定しています。このように手術前には十分な画像診断と綿密な手術計画が重要となります。当院では胸壁や骨盤に悪性骨・軟部腫瘍が発生した場合には整形外科医だけでなく、呼吸器外科、泌尿器科、消化器外科・婦人科などと充分に協議し時によっては合同で手術を行うこともあります。手術前から心理的ケアやリハビリの先生による評価など多職種の連携を行い、よりよい術後の生活を目指しています。
- 化学療法
骨・軟部腫瘍の治療では抗がん剤を用いた化学療法を行うこともあります。化学療法を行う場面は大きく分けて二つあり、一つ目は手術前後に根治性を高める目的として行うもの、二つ目は進行期の腫瘍に対して腫瘍の増大をなるべく抑えるために行うものです。
根治目的で行う手術前後の化学療法は、抗がん剤が効きやすい、かつ抗がん剤治療を行わなかった場合に再発リスクが高いとされている腫瘍に対して行います。手術で切除できた腫瘍が後に転移を起こすことがありますが、これはいろいろな検査を行っても発見できない小さな転移(微小転移)が手術の時にすでにあると考えられます。このような微小転移を治療するため術前や術後に抗がん剤の全身投与を行います(補助的化学療法)。骨肉腫(MAP療法)、ユーイング肉腫(VDC-IE療法)、深部発生・5cm以上の高悪性度軟部肉腫(AI療法)などが代表例です。
転移巣があるなど手術ができない進行期に、症状を抑えるために化学療法を行うことがあります(緩和的化学療法)。上記にあげた薬剤の他にパゾパニブ、トラベクテジン、エリブリンといった新しい薬が使用できるようになってきました。その他に効果が期待できる薬剤を探索するため、腫瘍組織の遺伝子検査についても保険の範囲内で可能なものがあれば積極的にご案内しています。
化学療法はつらい治療と思われがちですが、副作用を軽減する薬剤も進歩しており小児からやや高齢の方まで広く行うことができるようになっています。当院では薬剤師・看護師などの協力のもと、患者さんの副作用や不安をできるだけ取り除くように治療を進めています。
- 放射線治療
ほとんどの骨・軟部腫瘍は放射線感受性が低く、通常のX線による放射線治療のみでの根治は期待できません。しかし、切除範囲の縮小や再発率の低下などの効果に期待して手術の補助療法として放射線治療を行うことがあります。また、全身状態が悪く手術ができない場合や切除困難な部位に腫瘍が存在する場合にも、放射線治療を行うことがあります。腫瘍に対する治療だけでなく、腫瘍による疼痛や麻痺等の症状を緩和する目的でも放射線治療を行います。治療は放射線治療科で行いますが、当院では放射線治療科と毎週カンファレンスを行っており、効果と副作用を考えながら治療の適否と照射範囲を決定しています。
新しい放射線治療である重粒子線治療が悪性骨・軟部腫瘍の一部に対して保険診療として施行可能となっています。手術困難かつ一か所のみの病変、など保険適応となる条件が限定されている、治療できる施設が限られている、などのハードルがあります。当院では佐賀県鳥栖市の九州国際重粒子線がん治療センターに患者さんを紹介しています。重粒子線治療の定期的な検討班会議にも参加しています。