診療方針
「病む人の気持ちを」、そしてご家族の気持ちを尊重し、温かく、思いやりある、最良のがん医療を目指すという病院の基本理念に沿った診療を行うとともに、がん専門病院として我が国の乳がんに関する医学・医療の発展に貢献するためにも、日常の臨床データの効果的な集積と解析、そしてそれに基づいた臨床研究の遂行を基本方針としています。乳がんという疾患の特徴上、対象となる患者さんのほとんどは女性であり、乳房を扱う治療においては、精神的および外観的な面に関しても、十分配慮しております。
原発性乳がんの手術症例数は年間約300例です。乳がんの手術法、特に乳房温存療法を行うのか、乳房切除(全摘)を行うのかについては、乳がんの進行度や大きさなどがんの状況と、患者さんの希望とを十分に考慮して決定しています。乳房切除後に乳房再建を行う患者さんもおられます。乳房再建については、その適応、方法、再建時期などについて、当院形成外科医師とも十分連携、相談して決めています。また、術前の検査で明らかな腋窩(えきか)リンパ節転移のない患者さんには、センチネルリンパ節生検を行い、多くの症例で腋窩リンパ節郭清を省略しています。
乳がんは、乳がんの生物学的性質(サブタイプ)によって、再発率や薬物療法の効果が異なっています。そのため、術前や術後に再発リスクを低減するための補助療法も進行度やサブタイプによって異なっています。乳がんの治療はがん医療の中でも最も個別化治療が進んでいる分野です。進行度やサブタイプに応じて適切に治療することで、再発率は低下し、生存率は向上してきています。また、再発・転移乳がんに対しても、これまでの多くのエビデンスに基づき、また、患者さんの希望やおかれた状況も十分に吟味しながら、それぞれの患者さんに最善の治療を実践するよう心掛けております。
世界においては、新規薬剤の開発が進み、悪性腫瘍の治療成績は向上してきています。世界に遅れをとらないためにも、国際的に実施される治験(グローバル試験)に日本も参加することが非常に重要となります。当科では、日本における迅速な新規薬剤の保険承認に貢献すべく、参加可能なグローバル試験に積極的に参加しています。
また、がんの治療においても、病気だけを診るのではなく、“病む人”を全人的に診ることが大切です。患者さんは“病気をもった生活者”であるという視点を忘れず、病院を離れた生活の各場面にも配慮した治療の提供を目指しています。がんの生物学的な側面だけではなく、患者さんの心理的、社会的、倫理的、経済的な側面にも留意した医療実現のため、さまざまな職種が協力し、チーム医療、全人的医療の実践に取り組んでいます。
診療内容
診療実績
手術・処置の名称 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
2023年 |
原発乳癌切除術 |
302 |
264 |
304 |
296 |
308 |
346 |
337 |
376 |
355 |
320 |
乳腺良性腫瘍摘出手術 |
21 |
10 |
10 |
8 |
6 |
8 |
7 |
12 |
15 |
12 |
再発乳癌切除術 |
13 |
14 |
16 |
18 |
15 |
21 |
20 |
16 |
15 |
20 |
センチネルリンパ節生検 |
209 |
203 |
244 |
240 |
253 |
286 |
283 |
311 |
289 |
254 |
腋窩郭清 |
91 |
60 |
77 |
57 |
56 |
61 |
49 |
54 |
57 |
53 |
乳房再建術 |
9 |
5 |
4 |
6 |
8 |
5 |
11 |
9 |
15 |
17 |
治療期間目安
主な疾患の紹介時から治療までの期間
対象疾患 |
治療・検査内容 |
初診~入院までの期間:通常 |
担当診療科 |
乳がん |
手術 |
8週間~10週間 |
乳腺科 |
化学療法 |
3週間 |
乳腺科 |
実施中の治験・臨床試験
- 当科で実施中の治験はこちらをご覧ください。
- 当科で実施中の臨床研究はこちらをご覧ください。
担当医表
受付時間 |
8時30分~11時 |
外来診察室 |
乳腺科(Jブロック) |
初診(初めて)の方 |
代表番号 |
TEL 092-541-3231 |
再診(再来)の方 |
予約センター |
TEL 092-541-3262 |
※受診に関するお問い合わせについては上記にご連絡をお願いいたします。
※医師の学会出張や業務の都合による急な休診・代診が発生する場合がございます。
※初診時は絶食不要です。来院後は基本的に水分(水やお茶)のみ摂取可としていますが、食事をとりたい場合には必ずスタッフに確認をお願いいたします。
レジデント・フェロー募集案内
九州がんセンターの乳腺科は「乳癌診療の真のスペシャリスト」を目指しているやる気のあるレジデント(卒後3-5年目)、フェロー(卒後6年目以降)を募集しています。研修期間として原則2年(場合によっては1または3年)で、乳腺専門医の資格が取得できることを目標にしています。また、日本臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医を目指す医師の研修も受け入れています。レジデントで基本学会専門医(日本外科学会など)を取得するために必要な場合には、他科へのローテーションも可能です。
当科では、
- 乳癌・乳腺疾患の確実な診断と治療法構築の基本を理解すること
- 乳癌・乳腺疾患の治療について、それぞれの患者さんに最善の治療を提供するために、EBMを理解し、EBMが実践できるようになること
- 乳癌・乳腺疾患に対する、手術が安全に確実に行えること
- 新しいエビデンスを創出するために、質の高い治験や臨床試験に積極的に参加すること
- 乳癌のbiologyを理解した上で治療方針を考えることができように、臨床研究を行い、基礎研究分野にも関心をもつこと
を念頭に質の高い医療を行っています。
診療内容
【手術】
乳癌・乳腺疾患に対する手術を年間約300例行っております。それぞれの症例ごとによく吟味して術式の決定を行い、丁寧で、安全、確実な手術を行うようこころがけています。乳房再建に関しても、当院の形成外科医と一緒に行っています。
【薬物療法】
乳癌の術前・術後、転移・再発乳癌に対して、それぞれの症例の乳癌の性質や患者さんの状況に応じた最善の治療法選択が行えるよう、カンファレンス等で十分なディスカッションを行っています。そのディスカッションを通じてEBMの考え方や実践法を身につけてもらいます。患者さんにどのように説明するか、といったことについても、具体的に学んでいきます。また、再発・進行期には身体的・精神的苦痛に対する緩和ケアを経験するとともに、他の診療科や様々な職種、地域の医療機関とも連携し、チームで診療にあたることの重要性を学びます。
【治験・臨床試験】
国内及び国際的な治験・臨床試験に参加することで、現時点での標準治療やこれからの治療の動向、最先端の治療、重要なクリニカルクエスチョンを見出し、それに対する臨床試験の行い方を学ぶことができます。
【臨床研究】
よりよい医療を提供していくためには、これまでの臨床データをまとめ、疑問点を見出し、その解決のために研究を行うことは不可欠です。また、最近では多くの分子標的治療薬や新規抗癌剤などが登場しており、それを適切に使用するにはその分子機序を理解することが不可欠です。リサーチマインドを持って診療にあたることは各人の臨床力を向上させるのに非常に重要です。そのような観点から当科では臨床研究を積極的に進めていきます。学会(国内・海外)や論文発表も積極的に行っていただきます。
これから、乳癌の手術や薬物療法などを本格的に習得していこうと考えている方、まずはお気軽にご連絡ください。
文責 徳永 えり子(乳腺科部長)
募集案内に関するお問い合わせはこちら
トピックス
医師向け最新医学・医療情報サイト『m3.com』に掲載された当科医師の記事です。
一人ひとりの乳癌患者さんに最善の治療を届けるために
(部長 徳永えり子)
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