食道癌の情報
食道癌は我が国では8番目にり患率が高い癌であり、男性では近年、患者数は徐々に増えています。同じ食道癌でも日本と欧米では細胞の種類が異なり、欧米では腺癌が多いのですが日本では扁平上皮癌が9割以上を占めます。60〜70歳台の男性に多く認め、飲酒・喫煙が発癌の危険因子となることが知られています。
比較的初期の食道癌(癌の深さが粘膜下層までに留まる食道表在癌)では半数以上が無症状であるために、早期発見のためには検診や人間ドックが重要です。進行した癌では、嚥下困難、胸骨後部痛、悪心・嘔吐などが主な症状となりますが、全身倦怠感、食思低下、体重減少といった全身症状や嗄声(声のかすれ)、咳嗽、血痰などの他臓器への浸潤・転移に伴う症状で発見されることもあります。
食道癌の診断には内視鏡検査が有用であり、通常観察に加えてヨード染色やNBI(Narrow Band Imaging)観察を行うことで診断の精度が向上しています。治療法を決めるためには、臨床病期(ステージ)を決定することが重要です。臨床病期は(1)壁深達度(癌の深さ)、(2)リンパ節転移、(3)遠隔転移の3因子によって決まりますが、前述の内視鏡検査に加え、消化管造影検査、超音波検査、CT検査、FDG-PET検査などを行います。
治療について
食道癌に対する治療法は、主に(1)内視鏡的治療、(2)手術、(3)化学放射線療法(放射線と抗癌剤の併用)、(4)化学療法(抗癌剤投与)があり、病変のステージおよび全身状態に応じて決定します。進行癌に対しては、手術と化学(放射線)療法を組み合わせた集学的治療を行うことが多いです。
リンパ節転移を伴わない早期食道癌では内視鏡的治療が可能です。すなわち、通常の「食道内視鏡」で病巣を切除するのです。侵襲が小さく、1週間程度の入院で治療が可能です。(詳細は消化管・内視鏡科のHPを参照)。ある程度、進行した症例では、外科的切除または化学放射線療法が行なわれます。
食道は咽頭から胃へと食べ物を通過させる臓器であり、頸部・胸部・腹部と3領域にわたります。食道癌で多く見られる胸部食道癌に対する手術では、頸部・胸部・腹部それぞれの部位での操作が必要となり胃や大腸などの手術と比較すると侵襲が大きくなります。当院ではこれまでの開胸・開腹の手術に比較して、より低侵襲である胸腔鏡や腹腔鏡下手術をほぼ全ての患者さんに対して行っています。また、病変の進行度や患者さんの全身状態を考慮した上で、胸に傷を作らずに行う縦隔鏡手術も行っています。
胸部食道は周囲を心臓、大動脈、肺、気管・気管支などに取り囲まれているため進行するとこれら周囲臓器への浸潤をきたします。このような症例に対しても化学放射線療法にて腫瘍の縮小を図り切除を行う場合もあります。また、食道癌は他臓器癌の重複の頻度が高く、特に咽頭癌、喉頭癌などの頭頸部の癌をしばしば合併しています。このような重複癌の治療には、消化管外科、頭頸科、形成外科、放射線治療科などの複数の診療科の協力に基づくチーム医療を行うことが重要です。
手術で取りきれない食道癌や手術をうける体力のない方を中心に、最大量の放射線と抗癌剤で治療する根治的化学放射線療法があります。手術には及びませんが効果の高い人では癌が消えることもあり、患者さんによっては非常に有効な治療法です。
当院は、日本食道学会による食道癌治療の認定施設であるとともに、学会認定の食道外科専門医(全国で280名、九州で33名)が3名在籍している全国的にも数少ない施設の一つです。食道癌の治療においては、精密な診断技術とともに、内視鏡治療、外科手術、放射線治療、抗癌剤治療など、様々な治療法の中から、それぞれの患者さんにとって最適のものを選択し、あるいは組み合わせ、安全に遂行することが重要で、九州がんセンターではその全てに豊富な経験を有しています。(詳細は消化管外科、放射線治療科のHPを参照)