診療方針
当院の肝胆膵外科では、肝臓・胆道・膵臓領域のがん、胆石症などの胆道良性疾患などに対しても手術を行っています。がん以外の良性腫瘍や腫瘍かどうかの診断が難しいものについても対応しています。当科では難治性がんや高難度手術を要する場合も多いですが、丁寧に説明をして患者さんとご家族が安心して最適な治療を受けることができるように努めています。
九州がんセンターにおける肝胆膵外科の歴史を紐解くと、開院初期の1974年には膵頭十二指腸切除が行われ、これまでに600例以上の膵切除術が行われています。肝切除・肝腫瘍焼灼術は1400例以上の蓄積があります。当院は日本肝胆膵外科学会が認定する『高度技能専門医修練施設』です。
当院では、高難度手術を安全に行えるよう万全の準備を整えて手術を行うようにしています。手術や術前処置の時期は、病状に応じて適宜調整するようにしていますので、個々の患者さんにとって必要な治療が順番待ちのために適切な時期に受けられないというようなことはありません。食事や水分が通りにくい方、黄疸がでている方など、病状の進行によっては初めて受診される場合でも迅速に対応させていただきます。
肝胆膵の疾患は多岐にわたり解剖も複雑で、他科との連携が極めて重要です。治療法については、外科・内科のどちらを初診された患者さんでも、診断の結果によって適切な診療科が担当いたしますので、治療内容が異なってしまうことはありません。肝胆膵外科、消化管・腫瘍内科、消化器・肝胆膵内科、消化管外科、画像診断科のみならず、老年腫瘍科、緩和ケア科、病理診断科などを交えて毎週カンファレンスを行い、それぞれの患者さんに最適な治療方針を検討しています。
また、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士等のチームとしての質の高い医療が不可欠です。患者さんやご家族とのコミュニケーションを重視しバランスのとれた肝胆膵外科をめざしています。
地域の先生方にも『九州がんセンターに患者さんを紹介して良かった』と評価して頂けるように、しっかり連携を図りながら努力していきます。
診療内容
肝臓 |
肝悪性腫瘍(肝細胞癌、肝内胆管癌、転移性肝癌など)、肝良性腫瘍(肝血管腫、肝腺腫、限局性過形成性結節など)、脾臓疾患(特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、肝硬変に伴う脾機能亢進症) |
胆道 |
胆のう癌、胆管癌、乳頭部癌などの胆道癌、急性胆のう炎、胆石症(胆嚢結石、総胆管結石) |
膵臓 |
膵腫瘍(膵癌、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵粘液性囊胞腫瘍(MCN)、膵漿液性囊胞腫瘍(SCN)、膵神経内分泌腫瘍(P-NET)、Solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)、転移性膵腫瘍など) |
肝細胞がんの多くは慢性肝炎や肝硬変を合併していますので、がんの進行度のみならず肝機能に充分配慮して治療戦略を立てています。肝機能が良い場合は根治的標準治療として肝切除を行なっており、どのような場所でも技術的に切除可能です。肝機能や患者さんの状態によっては、消化器・肝胆膵内科との共同診療でラジオ波焼灼療法や肝動脈化学塞栓療法も考慮します。特に大きな肝細胞がんに対しては手術のみが根治を得られる治療であり、巨大肝がんなどの進行がんに対しても安全に手術を行う工夫をして良好な外科切除成績を得ています。手術の安全性を高める工夫をしており、最近ではほぼ全ての手術を無輸血で終えています。肝細胞がんは肝切除後に再発することが多いですが、肝機能が良い患者さんには、技術的に難しい2回目、3回目の再肝切除にも積極的に取り組み予後の向上に繋げています。
転移性肝がん
最近の化学療法の進歩により、転移性肝がんの患者さんに対しても肝切除を行うことが多くなっています。特に大腸がんは抗癌剤の高い治療効果が期待できる癌であり、肝転移に対しても積極的な切除を考慮すべきと考えています。患者さんの予後改善に繋がる見込みがあれば、肝両葉にまたがる10個を越えるような転移性肝がんに対しても、肝切除技術を駆使して根治に挑んでいます。当院は消化管外科や消化管・腫瘍内科と共同で診療に当たっており、難治がんに対して、手術治療と薬物治療の総合力で対応する体制が整っています。
胆道がんに対しては唯一の根治治療である高難度手術の拡大肝切除術や膵頭十二指腸切除術を積極的に行っています。治癒切除を目指し必要に応じて血管(門脈・動脈)合併切除再建も積極的に行います。特に肝門部胆管癌は大量肝切除、血管合併切除・再建など規模の大きな手術を必要とすることが多く、その治療適応決定や手術には専門的な技術を必要とします。当院では黄疸に対する治療や門脈塞栓術による残肝肥大などを行い、安全に最大限配慮して手術を行なっています。
膵がんは悪性度が高く予後不良な病気です。症状の出現が遅れるため、発見時には既に門脈や動脈などの主要血管への浸潤を認めたり、肝転移や腹膜播種などの遠隔転移を認めたりすることも少なくありません。転移のない症例には、根治を目指して膵頭十二指腸切除や膵体尾部切除を行います。最近では化学療法や放射線療法の治療成績が向上していることから、当科では消化器・肝胆膵内科との共同診療により高度進行癌に対しては症例に応じて術前化学療法と手術を組み合わせて治療をしたり、門脈合併切除や腹腔動脈合併膵体尾部切除(DP-CAR)を行ったりします。また手術をしても再発することも多い病気であり、手術によって術後の化学療法になるべく悪影響を与えないように術後治療の事まで考慮したバランスのとれた手術を行います。切除不能症例や再発症例に対してはバイパスなどの姑息的・緩和的治療も行います。
膵臓にできる腫瘍の中で液体を多く含む袋状の病変を膵のう胞性腫瘍と言います。代表的なものとして、膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm:IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(Mucinous Cystic Neoplasm:MCN)、漿液性嚢胞腫瘍(Serous Cystic Neoplasm:SCN)、充実性偽乳頭状腫瘍(Solid-Pseudopapillary Neoplasm:SPN)などがあります。これら病気は無症状の場合が多く、検診で偶然発見されることもあります。膵のう胞は良性のものから悪性のものまで様々であり、時間経過とともに段階的に悪性化を来す場合もあります。手術が必要かどうか治療方針を決めるためには専門的な検査や診断が必要となります。膵のう胞性腫瘍は、一般的には通常の膵がんに比べると悪性度が低いことが多いため、当院では低侵襲手術(腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術)を積極的に行なっています。また良性や境界悪性病変に対しては脾臓機能を温存する脾温存膵体尾部切除によって、できるだけ低侵襲・機能温存手術を行なっています。
低侵襲手術(腹腔鏡手術、ロボット支援手術)
手術の安全性と癌の根治性が損なわれない症例には保険診療の上で低侵襲手術(腹腔鏡やロボットによる肝切除、膵切除)を行っています。低侵襲手術では小さな傷で高精度の手術ができるため術後の痛みが少なく体への負担が少なく早期の退院・社会復帰が可能になっています。
胆のう、膵嚢胞、比較的小さい膵臓がんに対しては、ほとんどが低侵襲手術で治療が可能です。肝がんに対しては腫瘍の大きさ、位置、個数を考慮しながら安全にできる場合はできるだけ低侵襲肝切除を行っています。胆道がんや膵臓がんは進行していることが多く開腹手術を標準としていますが、安全性や治療効果を十分に検討した上で比較的早期のがんに対しては低侵襲手術を行っています。
当院は腹腔鏡下肝切除、腹腔鏡下膵切除、ロボット支援下肝切除、ロボット支援下膵切除を保険診療で行うことができる認定施設です。
診療実績
疾患別手術例数の推移
疾患 |
術式 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
2023年 |
原発性肝腫瘍 |
開腹肝切除術 |
18 |
19 |
16 |
10 |
11 |
13 |
12 |
8 |
腹腔鏡下肝切除術 |
0 |
7 |
7 |
19 |
15 |
15 |
8 |
6 |
ロボット支援下肝切除術 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
7 |
6 |
焼灼術 |
0 |
0 |
3 |
3 |
3 |
2 |
0 |
4 |
その他 |
- |
- |
2 |
0 |
1 |
2 |
0 |
0 |
転移性肝腫瘍 |
開腹肝切除術 |
22 |
20 |
15 |
15 |
13 |
11 |
7 |
11 |
腹腔鏡下肝切除術 |
0 |
8 |
21 |
7 |
10 |
11 |
13 |
14 |
ロボット支援下肝切除術 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
2 |
3 |
焼灼術 |
0 |
1 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
その他 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
2 |
1 |
0 |
他の肝疾患 |
開腹肝切除術 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
腹腔鏡下肝切除術 |
0 |
1 |
0 |
0 |
2 |
2 |
0 |
0 |
その他 |
- |
- |
- |
- |
- |
1 |
2 |
1 |
胆膵 ・ 十二指腸腫瘍 |
肝切除+胆道再建術 |
0 |
3 |
4 |
3 |
6 |
2 |
2 |
4 |
拡大胆嚢切除術 |
1 |
1 |
5 |
0 |
3 |
3 |
1 |
4 |
ロボット支援下胆道手術 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
1 |
0 |
膵頭十二指腸切除術・膵全摘術 |
14 |
21 |
23 |
35 |
23 |
20 |
21 |
36 |
腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術 |
- |
- |
- |
- |
- |
2 |
0 |
0 |
開腹膵体尾部切除術 |
13 |
13 |
13 |
9 |
9 |
12 |
4 |
6 |
腹腔鏡下膵体尾部切除術 |
- |
2 |
3 |
7 |
10 |
10 |
3 |
1 |
ロボット支援下膵体尾部切除術 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
9 |
15 |
膵中央切除・部分切除 |
- |
- |
- |
- |
- |
1 |
0 |
0 |
その他 |
1 |
5 |
6 |
6 |
14 |
8 |
6 |
6 |
胆嚢疾患 ・ 結石 |
開腹胆嚢摘出術 |
2 |
0 |
4 |
7 |
3 |
2 |
0 |
0 |
腹腔鏡下胆嚢摘出術 |
5 |
8 |
14 |
20 |
12 |
22 |
24 |
18 |
総胆管切開術 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
脾疾患 |
開腹脾臓摘出術 |
- |
1 |
0 |
2 |
0 |
0 |
1 |
2 |
腹腔鏡下脾臓摘出術 |
- |
2 |
3 |
4 |
3 |
0 |
2 |
1 |
その他 |
その他 |
- |
- |
5 |
7 |
6 |
6 |
6 |
4 |
治療期間目安
主な疾患の紹介時から治療までの期間
対象疾患 |
治療・検査内容 |
初診~入院までの期間:通常 |
担当診療科 |
肝臓がん |
手術 |
1~3週間 |
消化器・肝胆膵内科 →肝胆膵外科 |
膵臓がん |
手術 |
1~3週間 |
消化器・肝胆膵内科 →肝胆膵外科 |
胆嚢がん 胆管がん |
手術 |
1~3週間 |
消化器・肝胆膵内科 →肝胆膵外科 |
十二指腸がん |
手術 |
1~3週間 |
消化器・肝胆膵内科 →肝胆膵外科 |
実施中の治験・臨床試験
担当医表
受付時間 |
8時30分~11時 |
外来診察室 |
肝胆膵外科(Bブロック) |
初診(初めて)の方 |
代表番号 |
TEL 092-541-3231 |
再診(再来)の方 |
予約センター |
TEL 092-541-3262 |
※受診に関するお問い合わせについては上記にご連絡をお願いいたします。
※医師の学会出張や業務の都合による急な休診・代診が発生する場合がございます。
※初診時は絶食不要です。来院後は基本的に水分(水やお茶)のみ摂取可としていますが、食事をとりたい場合には必ずスタッフに確認をお願いいたします。
レジデント・フェロー募集案内
九州がんセンター肝胆膵外科では元気でやる気のあるレジデント・フェローを募集しています。
【研修プログラムの特徴】
1. 専門医取得が可能です。
研修を通してレジデントは外科専門医や消化器外科専門医、フェローは肝胆膵外科高度技能指導医、内視鏡外科技術認定を取得することを目指します。当院は日本肝胆膵外科学会高度技能医修練施設のhigh volume centerであり豊富な手術症例を経験することができます。習熟度により各種手術の手術助手を経験した後に、まず肝切除から術者となり、リンパ節郭清を伴う膵胆道系手術へステップアップしてもらいます。また、希望者は消化管外科を同時にまたはローテーションで研修することができます。
2. がん専門施設で多くの症例を経験できます。
がん専門施設であり、多くの手術症例に参加し、経験豊かな指導医の元でがんの標準的な手術手技の習得をすることができます。がん専門施設という特質上、他診療科・職種との合同カンファレンスを通して実践的な臨床腫瘍外科医を育成するとともに、臨床試験なども積極的に行っておりこれからのがん治療の礎となるであろう現場に携わることができます。
3. 臨床研究・基礎研究に積極的に取り組んでいます。
学会発表・論文作成も強力にサポートします。症例報告だけでなく臨床データを解析したり、基礎との橋渡し研究に参加してもらいます。将来後輩を指導育成できる肝胆膵外科医になってもらうことを目指しています。
【募集要項】
募集時期:随時
募集人員:レジデント(卒後3-5年目)1-2名、フェロー(卒後6年目以降)1-2名
研修期間:原則2年間(1-3年間)
九州がんセンター肝胆膵外科では、手技や知識の習得には忙しく厳しく臨んでいますが、仕事はチームワーク良く明るく楽しくメリハリをつけて仕事をしています。興味がある方はまずはお気軽にご連絡ください。
文責 杉町 圭史(肝胆膵外科部長(診療科長))
募集案内に関するお問い合わせはこちら
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診療科の垣根を超えたオール九州がんセンターで挑む膵がん治療
(部長 杉町圭史)
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