診療方針
肺癌、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍、悪性胸膜中皮腫など胸部悪性腫瘍を中心に、手術療法、化学療法、および放射線療法などを併用した集学的治療を行っています。当科は医長の岡本龍郎、庄司文裕など常勤医7名、非常勤医1名の医師を中心としたチームで診療に携わっています。
呼吸器腫瘍科は内科、外科の区別なく総合的に診療することを特徴としています。これは、肺癌をはじめとする胸部の悪性腫瘍の治療においては旧来の内科、外科という区分は通用せず、幅広い知識と経験を要するからです。手術は呼吸器外科の専門医によって、化学療法は薬物療法専門医の指導のもとに施行されます。また、放射線治療は放射線科の治療専門医によってなされますが、治療の一貫性を保つため、主治医は呼吸器腫瘍科の医師が担当しています。個々の患者さんの治療法は主治医の独断ではなく、全医師参加のカンファレンスによって決定されます。もちろん、いかなる治療についても患者さんに十分な説明を行い、同意が得られることを絶対的な原則としています。
最近では、非常に小さい(2cm以下)肺癌が見つかるようになり、ある一定の基準を満たした肺癌については、肺の切除範囲を小さくする縮小手術(区域切除など)を体に優しい胸腔鏡を併用して行っています。また、縦隔リンパ節、胸壁や血管に癌が浸潤した局所進行肺癌に対しては、放射線、化学療法そして手術療法を組み合わせた治療法を行い、治療成績の向上を図っています。
近年、アスベストとの関係で増加している悪性中皮腫の診断と治療や縦隔腫瘍の新たな治療にも積極的に取り組んでいます。
昨今、がんの原因となる遺伝子を同定し、その遺伝子の働きを抑えるという、分子標的治療が従来の抗がん剤治療に比べ、治療成績の向上に貢献することが証明されました。当センターでは新たな分子標的治療薬の開発治験を多く実施し、出来るだけ早く、患者さんの基にお薬が届くことに精力を傾けています。
九州がんセンターでは、常にがんの新しい治療法や治療薬の開発に取り組んでいるため、当科でも種々の治験・臨床試験を行っています。このような治験・臨床試験を行うことで、従来の治療を上回るより良い治療法を確立することが期待できますので、治験・臨床試験について患者さんのご理解とご協力をお願いします。
診療内容
肺 |
肺癌、転移性肺腫瘍 |
胸膜疾患 |
悪性胸膜中皮腫 |
縦隔腫瘍 |
胸腺癌、胸腺腫、縦隔原発胚細胞腫瘍 |
国立病院機構九州がんセンターの基本理念に沿って、"病む人の気持ち"、"家族の気持ち"を尊重し、患者さんやそのご家族との信頼関係を築きながら、肺癌・縦隔腫瘍をはじめとする胸部悪性腫瘍に対して最良の医療を提供することを基本方針としています。また、がんセンターの責務である臨床試験や治験を数多く遂行し、新たな治療方法を構築することにより、常に最高、最新の医療をめざしています。
呼吸器腫瘍科の最大の特徴は、内科、外科を区別することなく総合的に診療にあたっている点にあります。このシステムで、入院および外来にて手術療法、化学療法、放射線療法あるいはこれらの組み合わせによる集学的治療を行っています。胸部悪性腫瘍の診療においては、迅速な診断のもとで遅延なく治療に進む必要があり、総合的な知識と経験が必要不可欠です。そのため、個々の患者さんの治療方針決定および治療の評価は、医師全員参加のカンファレンスにて行い、その治療は看護師、薬剤師、緩和チーム、MSW、理学療法士などと連携したチーム医療により質の高さを維持しています。
診断については、各種画像診断に加え、気管支鏡、CTガイド下肺生検、胸腔鏡下生検などを駆使し迅速な診断を心がけています。超音波気管支鏡(EBUS)の導入により、リンパ節転移の正確な診断も可能となりました。
肺癌手術については、あくまで根治性を第一に行っており、局所進行肺癌では術前導入化学放射線治療を行った後に手術で完全切除を目指しています。当科で確立したシスプラチン/TS-1に放射線治療を併用した方法を術前に行うことにより、非常に良好な成績をおさめています。一方、2cm以下の小型肺癌に対しては、根治性を保ちながら区域切除や楔状切除の縮小手術を取り入れています。また、適応のある症例に対しては術後補助化学療法を行い、予後向上を図っています。肺癌をはじめ多くの胸部の手術には内視鏡(胸腔鏡)下手術を標準的に行っており、小開胸創と胸腔鏡ポートの切開のみで、術後回復・離床も早くなっています。
手術不能な進行肺癌に対しては、化学療法を中心に治療を行っています。近年では、新たな分子標的薬や免疫療法が認可され、治療成績がさらに向上しています。
当科は日本肺癌学会の「肺がん診療ガイドライン」作成に関わっているため、そのガイドライン作成に必要なデータを蓄積する目的の臨床試験や、新規抗癌剤の早期承認にむけての治験などにも力を入れています。また所属する臨床試験グループで企画された、肺癌では初めての医師主導治験にも参加しています。販売された抗癌剤の適正使用を検討する多施設大規模臨床試験に最近5年間でのべ450人を越える患者さんの協力を得て、標準治療の確立に貢献いたしました。
診療実績
肺がんの治療実績
|
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
手術 |
141 |
155 |
145 |
125 |
126 |
放射線療法のみ |
10 |
5 |
14 |
7 |
8 |
化学療法のみ |
102 |
118 |
105 |
108 |
78 |
化学放射線併用療法 |
26 |
27 |
13 |
14 |
23 |

肺がんの手術実績
|
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
全摘除 |
6 |
2 |
4 |
5 |
0 |
肺葉切除 |
121 |
137 |
110 |
106 |
97 |
縮小切除 |
14 |
16 |
31 |
26 |
34 |
胸腔鏡下 |
103 |
111 |
101 |
104 |
110 |

手術件数
疾 患 |
術 式 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
原発性肺腫瘍 |
全摘出術 |
4 |
2 |
4 |
4 |
0 |
葉切除術 |
24 |
31 |
30 |
26 |
13 |
葉切/全摘+形成 |
2 |
2 |
3 |
1 |
0 |
葉切/全摘+合併切除術 |
6 |
9 |
3 |
1 |
2 |
葉切除術(鏡視下) |
91 |
95 |
74 |
79 |
82 |
縮小切除 |
3 |
0 |
4 |
1 |
6 |
縮小切除(鏡視下) |
13 |
21 |
30 |
25 |
28 |
その他 |
10 |
6 |
8 |
3 |
3 |
転移性肺腫瘍 |
全摘術 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
葉切除術 |
0 |
0 |
0 |
2 |
1 |
葉切除術(鏡視下) |
3 |
1 |
3 |
4 |
0 |
縮小切除 |
0 |
2 |
1 |
2 |
3 |
縮小切除(鏡視下) |
5 |
15 |
14 |
17 |
29 |
その他 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
縦隔腫瘍 |
摘出術 |
2 |
0 |
2 |
1 |
1 |
摘出術(鏡視下) |
5 |
2 |
2 |
7 |
4 |
摘出術+合併切除 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
その他 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
膿胸 |
ドレナージ術 |
5 |
10 |
3 |
7 |
2 |
胸郭形成術 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
その他 |
1 |
0 |
1 |
1 |
2 |
気胸 |
ブラ切除・縫縮術 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
ブラ切除術(鏡視下) |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
その他 |
0 |
0 |
1 |
0 |
1 |
その他 |
|
21 |
22 |
15 |
23 |
30 |
小計 |
|
200 |
226 |
203 |
204 |
207 |
治療成績


治療期間目安
主な疾患の紹介時から治療までの期間
対象疾患 |
治療・検査内容 |
初診~入院までの期間:通常 |
担当診療科 |
肺がん |
手術 |
3週間(術前検査期間を含む) |
呼吸器腫瘍科 |
化学療法 |
1-3週間 |
呼吸器腫瘍科 |
放射線療法 |
1-3週間 |
呼吸器腫瘍科 |
放射線化学療法 |
1-3週間 |
呼吸器腫瘍科 |
実施中の治験・臨床試験
- 当科で実施中の治験はこちらをご覧ください。
- 当科で実施中の臨床研究はこちらをご覧ください。
担当医表
受付時間 |
8時30分~11時 |
外来診察室 |
呼吸器腫瘍科 (Bブロック) |
初診(初めて)の方 |
代表番号 |
TEL 092-541-3231 |
再診(再来)の方 |
予約センター |
TEL 092-541-3262 |
※受診に関するお問い合わせについては上記にご連絡をお願いいたします。
※医師の学会出張や業務の都合による急な休診・代診が発生する場合がございます。
※初診時は絶食不要です。来院後は基本的に水分(水やお茶)のみ摂取可としていますが、食事をとりたい場合には必ずスタッフに確認をお願いいたします。
レジデント・フェロー募集案内
九州がんセンターの呼吸器腫瘍科は「呼吸器腫瘍疾患全般」に興味のあるレジデント(卒後3-5年目)、フェロー(卒後6年目以降)の外科系および内科系の先生を募集しています。研修期間として原則2年(場合によっては1または3年や短期も可能)で、他科(病理診断科、血液内科、消化管腫瘍内科、乳腺科など)へのローテーションも可能です。
当科では、
- EBMに基づいた最新医療の提供と集学的治療の充実
- 呼吸器腫瘍疾患治療のEBM構築への貢献
- 呼吸器腫瘍疾患の診療および研究を担う人材の育成
の3つを最重点項目として掲げ、取り組んでいます。
1.EBMに基づいた最新医療の提供と集学的治療の充実
当科の診療における最も誇れる特徴として、外科および内科が同じ呼吸器腫瘍科のなかで、綿密に連携を取りながら診療に充っていることが挙げられます。カンファレンスも外科・内科合同で常に行い、このことで一患者を俯瞰的にみることができ、充実した集学的治療を提供できると考えております。当科は、2名の薬物療法専門医、4名の呼吸器外科専門医が在籍しており、常に自由で活発なカンファレンスが行われております。外科・内科それぞれを目指す先生にとっても非常に有意義な場だと考えております。
2.肺悪性腫瘍疾患治療のEBM構築への貢献
当科では、臨床試験および治験に積極的に参加しています。臨床試験では、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)及び西日本がん研究機構(WJOG)を初めとした臨床試験グループの主要施設として症例登録および研究代表者・研究事務局として貢献しています。また、治験においても多くの試験に参加し、新規薬剤の開発にも携わっています。2020年度の実施臨床試験数 約80例、治験約24例と、日本有数の症例数を誇ります。呼吸器腫瘍疾患のスペシャリストを目指す先生にとって、身近に最新の臨床試験および治験を経験することは、今後の糧になるはずです。この経験は、一般市中病院では経験し難いものです。
3.肺悪性腫瘍疾患の診療および研究を担う人材の育成
当科の責務の一つに、未来の人材育成があります。近年、呼吸器腫瘍領域の治療は内科―外科―放射線科と他分野の治療にまたがる場合が多くなり、幅広い知識と経験が必要となっています。当科において、幅広く学ぶことで、広い分野に精通したスペシャリストを目指せます。また、外科系・内科系問わず、専門医の取得のための業績・診療実績を積むことが可能で、専門医取得に積極的にアプライしていただいております。多くの先輩方が専門医を取得し、指導的な立場で他病院にて活躍されています。実際に当科での修練にて取得でき得る専門医を下記に記します。
内科系:がん薬物療法専門医*1、呼吸器専門医(内科系)、呼吸器内視鏡学会専門医、がん治療専門医
外科系:呼吸器外科専門医*2、呼吸器専門医(外科系)、外科学会専門医、呼吸器内視鏡学会専門医、がん治療専門医
*1 希望者は、外科医の立場でもローテンションにより薬物療法専門医の取得も可能。
*2 2020年原発性肺腫瘍年間手術症例126例、年間総手術症例数207例。
一方、学会発表・論文発表も推奨しています。国内学会はもちろんのこと、国際学会での発表も可能です。論文発表に関しては、経験豊富なスタッフが指導をし、国際一流雑誌への掲載を目指します。また、臨床研究のみに限らず、基礎研究に興味のある方には、当院基礎研究室を活用し基礎研究の機会の提供も可能です。
2016年3月から九州がんセンターは新病院に移転し、最新の設備で診療を行っています。外科系・内科系問わず、呼吸器腫瘍領域のスペシャリストを目指し、最新の知見や手術手技などを習得していこうと考えている方はもちろんのこと、少しでもがん診療専門病院での修練に興味のある方は、お気軽にご連絡ください。
当科での修練は、若い先生のキャリア形成の上で必ず役にたつものになると、確信しております。
文責 岡本 龍郎(呼吸器腫瘍科医長)
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医師向け最新医学・医療情報サイト『m3.com』に掲載された当科医師の記事です。
病む人の気持ちを、そして家族の気持ちを尊重した先進医療を一人一人の患者さんに届けたい
(医長 岡本龍郎)
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