当院で人工肛門を造設された患者さんの体験談とイラスト(一部抜粋)
(1)術前説明
私は直腸がんでした。肛門のすぐ上に比較的大きながんができて、肛門を残すと再発の 可能性が大きく、肛門温存は勧められないと説明がありました。実は病院に来る前から「がんかも知れない」と覚悟していたのですが、いざ告知されると「死」の文字が頭をよぎります。ステージIIIaの直腸がんと診断されて、2つの治療方針の説明がありました。
1つはがんが大きいので、まず抗がん剤で小さくしてから手術。もう1つは、抗がん剤は省いていきなり手術ということでした。どちらにせよ肛門温存の言葉はありませんでした。「どちらの方法にしますか?」と、先生はおっしゃいますが、私の頭には[おしりの穴][無くなる]の文字がグルグルと回っていました。「どゆこと?」「どうやって排便するの?」みたいな疑問だらけでした。今でこそ笑っちゃいますが、この時は真剣に戸惑っちゃいました。命にも関わる病気の為に肛門様が犠牲になってくれる。と気付くには少し時間がかかりました。問題はおしりの穴じゃない。命を脅かす「がん」なんだ。
これに気付いた私はがんの治療に専念する事にしました。と言っても、私には治療の知識も技術もありません。私は何も出来ない。がんと戦えない。私にできることは、がんを受け入れる事。上手く付き合うことなんです。私は体調や、治療に打ち勝つ精神を整えたり、正確な体の情報を伝える、これに徹する事にしました。「うん!これなら自分も協力できる。病気に関わることが出来る」気持ちに踏ん切りが出来た。ここからは何時もの自分に戻れたような気がします。素人が無理にがんと闘おうとすると、余計な情報に振り回されて冷静で居られなくなると思った私は、どうしたら日常生活に近付くことが出来るか、それをテーマとして掲げることとしました。自分だけの力でどうにもできない病と向き合いながら、新しい日常をいかに楽しい物にできるか。昔からの日常をどう取り戻せるか。それを続けた結果増えた日常がこの文章を書く事(笑)でした。
<術前説明に関して(認定看護師から)>
手術して人工肛門を造設するという決断には、不安やストレスがつきまといます。肛門の機能が失われ、お腹に腸が出て、その部分からガスや便が出てくる大きな手術では、新たな生活スタイルに変えなければならないことへの心の葛藤も大きくなります。また、手術の選択は、その後の人生に大きな影響を及ぼします。
まずは、後悔しないよう、可能な限りの情報を入手することです。そのために、主治医や人工肛門の専門看護師から、適切な情報の提供や情報の整理を行います。また患者の精神的安定には家族の支援も大きいため、ご家族にも同じように情報を提供していくことが必要です。
【人口肛門用の装具】