薬物療法について
総説
がん薬物療法はがん細胞そのものやがん細胞周囲の環境に作用してがん細胞を死滅させたり増殖を抑えたりする薬での治療です。白血病、悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍など限られた疾患では薬物療法だけで治癒が期待できます。しかし多くのがんでは手術と組み合わせて術前や術後に薬物療法を行うことで再発率を減らし治癒を目指します。切除不能・転移再発したがんでは長期の延命や症状緩和、QOL(生活の質)の維持・向上を目的として薬物療法を行います。
新薬の開発や抗がん薬の副作用を和らげる支持療法の発達によりがん薬物療法は大きく進歩しています。当院では薬物療法の恩恵を最大限受けていただくために、がん専門病院ならではの多職種によるチーム医療で、治療中の患者さん、ご家族をサポートしていきます。
新薬の開発や抗がん薬の副作用を和らげる支持療法の発達によりがん薬物療法は大きく進歩しています。当院では薬物療法の恩恵を最大限受けていただくために、がん専門病院ならではの多職種によるチーム医療で、治療中の患者さん、ご家族をサポートしていきます。
種類別の概説

がん薬物療法の目的は、がんの種類、病態により大きく「治癒・再発予防」と「延命・症状の緩和やQOLの維持・向上」に分けられます。ガイドラインや論文などのエビデンスに基づき、単独あるいは数種類の薬剤を組み合わせて投与していきます。
薬物療法を始めるに当たっては、治療の目的、メリット(効果)とデメリット(副作用など)をスタッフとよく話し合い、理解をしていただくことが大切です。
がん薬物療法は以下の4つに分けられます。
薬物療法を始めるに当たっては、治療の目的、メリット(効果)とデメリット(副作用など)をスタッフとよく話し合い、理解をしていただくことが大切です。
がん薬物療法は以下の4つに分けられます。
細胞障害性抗がん薬
歴史の長い薬剤ですが現在でもがん治療の中心的役割を果たしています。アルキル化剤、代謝拮抗薬、白金製剤、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管作用薬などの種類があり、細胞のDNAの複製や細胞分裂を妨げる働きがあります。がん細胞だけでなく正常細胞も攻撃するため、薬物有害反応(副作用:悪心、嘔吐、下痢、脱毛、骨髄抑制など)がでやすいという点がデメリットです。
分子標的薬
タンパクや遺伝子の異常(バイオマーカー)を標的とした狙い撃ちの治療です。「治療の個別化」の一つであり2000年代から臨床応用が進みました。経口薬である小分子化合物(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬など)、注射薬である抗体薬(抗HER2薬、抗EGFR薬、抗VEGF薬など)に分けられます。比較的副作用は少ないですが、抗がん薬とは異なる独特の副作用が見られることがあります(皮疹、間質性肺炎、高血圧、血栓症、尿タンパクなど)。
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)
人の免疫をつかさどるリンパ球の一種であるT細胞は、がん細胞を異物として認識し攻撃・排除しています。しかし、一部のがん細胞はこの攻撃を回避するしくみを獲得し(免疫寛容)、腫瘍として増大、進展していきます。ICIは免疫寛容にかかわるPD-1, PD-L1, CTLA-4などの分子に結合し、いわば免疫のブレーキを解除することで抗腫瘍効果を発揮します。メラノーマ、腎細胞がん、非小細胞肺がん、食道がんを始め多くのがんに適応が広がっています。一部の症例には非常に長期に効果が持続します。しかし免疫力が強くなりすぎ自己の正常細胞を攻撃することによって、自己免疫疾患様の症状が見られることがあります(免疫関連有害事象:irAE)。甲状腺機能障害、副腎皮質機能低下、肝障害、皮膚障害、間質性肺炎、劇症1型糖尿病など全身のあらゆる臓器が標的となり得ます。irAEは発現時期の予測が難しく、治療終了後しばらくして突然発症することもあります。
ホルモン療法薬
乳がんや前立腺がんなどホルモンの作用により増殖するがんに対して適応となります。多くの方は比較的軽微な副作用(ほてり、関節痛など)で治療が継続できます。