遺伝性のがんこのページを印刷する - 遺伝性のがん

「遺伝性のがん」についての説明

親族にがんになるひとが多いと、よく「うちはがん家系。」という言い方をします。がんは遺伝と環境のバランスによって発生するものと考えられていますが、環境の影響でほぼ説明できるがんがある一方、遺伝の影響がかなり大きいものが知られてきました。すべてのがんが遺伝するわけではありませんが、一部に「遺伝するがん」の存在がわかってきたのです。
このような遺伝するがんにの中には、遺伝子検査で診断可能であり、且つ対処方法が明らかになっているものがあり、積極的な対応がもとめられています。
現在、遺伝するがんには、いくつかの種類があることがわかっています。

A. 一般的ながんが遺伝する場合
B. めずらしいがんが遺伝する場合
C. 遺伝病にともなってがんができる場合

このうち、AやBの場合を遺伝性腫瘍呼んでいます。もっともよくみられるのは、比較的頻度の高いA.一般的ながんが遺伝する場合です。

1. 大腸癌
2. 胃癌
3. 乳癌
4. 婦人科がん

このようながんが親族の中で多数見られる場合には、遺伝性腫瘍をうたがう必要があります。また、著しい若年の発症も、遺伝性腫瘍をうたがう必要があります。
主な遺伝性腫瘍には、下記のようなものが挙げられます。

1. 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome, HBOC)
2. リンチ症候群(Lynch Syndrome)/ 非ポリポーシス遺伝性大腸癌(Hereditary Non-Polyposis Colorectal Cancer, HNPCC)
3. 家族性大腸腺腫症 / 家族性大腸ポリポーシス(Familial Adenomatous Polyposis, FAP)
4. 多発性内分泌腫瘍症(Multiple Endocrine Neoplasia, MEN)I型 / II型
5. リ・フラウメニ症候群(Li-Fraumeni Syndrome, LFS)

検査

遺伝性腫瘍には医学的な診断基準があります。診断基準では、がんの種類、がんになった年齢、家系内でのがん患者の数などから判断します。遺伝相談・カウンセリングの中で、これらについて詳しくうかがうことでわかります。また、遺伝性腫瘍には、原因となる遺伝子を直接検査することで、よりはっきりさせることができる場合があります。このような検査を遺伝子検査とよびます。

遺伝子は、細胞内で生命活動を担う部品(タンパク質)の設計図です。遺伝性腫瘍は、特定の遺伝子の設計情報の変化が遺伝によって受け継がれることを原因としています。遺伝子検査は、この遺伝子の情報を読み取る検査です。部品の故障の原因となる遺伝子情報のはっきりとした変化がみつかれば、診断を確定することができ、適切な対応を開始することができます。また、ご親族の方々のリスクを評価することもできます。しかしながら、遺伝子検査をおこなっても、遺伝子情報のはっきりとした変化が確認できないこともあります。このため、最近では、遺伝性腫瘍の原因遺伝子を多数、一度に検査することもあります(※費用については、下記を参照)。また、部品の故障につながる変化かどうか判断できない所見がみつかることもあります。

遺伝性腫瘍の遺伝子検査には、まだ保険診療でみとめられていないものが多く、自費診療によって提供されるものが少なくありません。費用は、単一の遺伝子の検査では、自費診療の場合、約50,000円から120,000円程度。保険診療の場合、約12,000円から60,000円程度。また、多くの遺伝子を検査する場合は、約400,000円程度を要します。

遺伝性腫瘍であることが強く疑われても、遺伝子検査を受けない選択肢を選ぶこともできます。

治療

多くの遺伝性腫瘍では、生じるがんは、大腸癌、乳癌などの一般的ながんです。これらのがんそのものに対する治療は、大腸癌、乳癌などに対する一般的な治療とかわりません。しかしながら、遺伝性腫瘍では、一般的ながんの患者にくらべ若い年齢で発症したり、何度もがんが生じたりすることがあるため、がんの治療と並行して、より注意深い定期的な検査が必要になります。
この定期的な検査(サーベイランス)は、遺伝性腫瘍においては、治療と同じく、あるいはそれ以上に重要な対策といえます。また、このサーベイランスにおける諸検査は、内容や頻度ともに通常の検診とは異なりますので、専門的な機関で受ける必要があります。
一部の遺伝性腫瘍では、がんが生じる可能性の高い臓器を予防的に切除する手術療法(リスク低減手術)も実施されています。リスク低減手術も、専門的な医療機関で提供されています。

当院で担当している診療科

※発症したそれぞれのがんの治療は各診療科が担当します。
※サーベイランス、リスク低減手術も、対象臓器に応じて、各診療科が担当します。

ガイドラインの紹介